大判例

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東京高等裁判所 平成6年(ネ)1779号 判決

長野市花咲町一二四八番地

控訴人

信濃航空株式会社

右代表者代表取締役

山口忠常

右訴訟代理人弁護士

川上眞足

長野市三輪荒屋一二一七番地一 第一安西ビル

被控訴人

有限会社

長野デザインセンター

右代表者代表取締役

小島正昭

右訴訟代理人弁護士

村下憲司

長野県大町市大字三八八七番地

被控訴人

大町市

右代表者市長

腰原愛正

長野県北安曇郡白馬村大字北城七〇二五番地

被控訴人

白馬村

右代表者村長

福嶋信行

長野県北安曇郡小谷村大字中小谷丙一三一

被控訴人

小谷村

右代表者村長

郷津久男

右三名訴訟代理人弁護士

石津廣司

"

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、原判決別紙一の図面(以下「本件原画一」という。)の全部または右原画のうち空を除くその余の山及び湖などの土地の一部分を印刷、出版、販売あるいは頒布してはならない。

3  被控訴人有限会社長野デザインセンター(以下「被控訴人デザインセンター」という。)は、本件原画一、原判決別紙二の図面(以下「本件原画二」という。)及び原判決別紙三の図面(以下「本件原画三」という。)の全部または右各原画のうち空を除くその余の山及び湖などの土地の一部分の模写並びに右各原画及び右模写図面のポジフィルム及びネガフィルムの作成をしてはならず、かつ、これらの各原画、模写図面のポジフィルム及びネガフィルムを他に貸与してはならない。

4  被控訴人デザインセンターは原判決別紙四記載の〈1〉ないし〈17〉、被控訴人大町市は同〈8〉、被控訴人白馬村は同〈5〉、〈10〉、〈11〉、〈14〉及び〈15〉、被控訴人小谷村は同〈6〉及び〈7〉、被控訴人大町市、被控訴人白馬村及び被控訴人小谷村は同〈1〉ないし〈4〉、〈13〉及び〈17〉の物件の全部を直ちに廃棄せよ。

5  控訴人に対し、被控訴人デザインセンターは二〇五〇万円、被控訴人大町市は一八〇〇万円、被控訴人白馬村は一七〇〇万円、被控訴人小谷村は一九〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を各自支払え。

6  被控訴人大町市は、控訴人に対し、本件原画一を引き渡せ。

7  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨の判決

第二  事案の概要及び証拠関係

事案の概要は、原判決二一頁八行目の「被告大町市」を「控訴人」と訂正し、同二三頁八行ないし二四頁二行を「(二)ポスター三〇〇〇枚の請負代金として一一〇万円を受領したことは認めるが、著作権使用料と印刷代金は別個に決定しているのであって、この代金に著作権使用料は含まれていない。このことは、控訴人の提出した被控訴人大町市宛の見積書に「ポスター三〇〇〇枚、単価三六七円弱、金額一一〇万円」と記載されていること、右代金に著作権使用料を含めると、単価二六六円になるにも拘らず、僅か一か月後に被控訴人白馬村が追加注文したポスター八〇〇枚の単価が三六〇円であることから明らかである。したがって、被控訴人らの主張する弁済は印刷代金の弁済にすぎず、著作権使用料の弁済としてなされたものではない。」と改め、同二八頁末行「被告」を「被控訴人三市村」と改め、「二 争点」に対する当審における当事者双方の主張として次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであり、証拠関係は、原審における証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

本件原画二及び本件原画三は、本件原画一の二次的著作物である。

著作権法二条一項一一号に規定する「変形」とは、絵画を彫刻にしたりするように次元を異にして表現する場合と、写真を絵画にするように表現形式を変更する場合があるが、本件では、絵画をそのまま絵画として変形したのであるから、その変形の程度がよほど大きなものでなければ二次的著作物と認定されるべきである。

本件原画一と本件原画二、三は、ともに全く同一の風景を描いたものであり、実際には見ることのできない山並みが本件原画一の最大の価値であるところ、本件原画二、三は、その山並みを同じ配列で描いているし、図の縦横の比率も同一である。本件原画二は、冬山を夏山に変化させ、平野部を上下に広げたのみであり、本件原画三は、同じ冬山で、スキー場のゲレンデを誇張する等したのみである。

酒井の原審における証言の信憑性を判断するに当たっては、当時酒井が被控訴人長野デザインセンターから仕事を受けていたことを考慮すべきであるが、それにしても、本件原画二、三は、本件原画一を見て描きながら違う構図にしようとしたというのであるから、本件原画一を変形させたものが本件原画二、三であることは明らかである。

二  被控訴人デザインセンター

本件原画一と本件原画二、三は、描写の対象とされている地域がほぼ同一であることを除き、(一)稜線、山形、尾根筋、谷、山麓、川、山林、平野、湖沼等の自然の地形の描写が、描線、距離感、険阻感、広狭感のいずれにおいても全く異なり、(二)縦横の比率及び色彩が全く異なり、(三)道路、建物、スキー場等も、その描出されている位置、表現等において全く類似性がない。

すなわち、本件原画二、三から本件原画一の本質的特徴を感得するということはあり得ない。

三  被控訴人三市村

本件原画一は、冬の北アルプスを表現したものであるが、北アルプス全体を描くことに重点が置かれ、スキー場のゲレンデが必ずしも明瞭に読み取れない。これに対し、本件原画二は、雪のない北アルプスが描かれ、配色が変えられ、表現の中心が平野部に置かれ、そもそも表現の視点が全く異なっている(本件原画一に比して本件原画二の視点は低い位置にある。)。また、本件原画三は、スキー場のゲレンデの位置がはっきりと表現されており、表現の視点(本件原画三の視点も低い位置にある。)や山並みの表現形態も異なっている。

すなわち、本件原画二、三は、本件原画一と外形上全く異なっており、本件原画一の本質的特徴を感得し得るようなものではない。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。

その理由は、次のとおり改めるほか、原判決の「第三 争点に対する判断」に説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決四六頁七行ないし四九頁三行までを次のとおり改める。

「これを本件についてみると、甲一の四、検甲一五の一ないし九、丙一ないし三、検丙八ないし一〇及び証人酒井宏の証言並びに弁論の全趣旨によれば、(一)本件原画二、三は、酒井が控訴人会社に再就職した後、本件原画二については昭和五九年二、三月頃、本件原画三については昭和六〇年夏頃、個人的に被控訴人デザインセンターから、新しい感じで書いてほしいとの依頼を受けたことにより描いたものであり、酒井としては、本件原画一と類似しないほうが良いとの考えで、そのように努めたものであること、(二)本件原画一は、北アルプスの高く険しい峰々が連なった状態とこれに続く低い山々と、その間に横たわる平野部、湖沼等を描写の対象としているが、冬の北アルプス全体の美しさを表現しようとしたものであって、山岳部はもとより、谷、山麓、平野等が山林、道路、湖沼、川を除きすべて雪に蔽われた状態に描写されており、スキー場のゲレンデは必ずしも明瞭に読み取れず、正面の連峰が遠方の山まで美的に表現されているものであること、(三)これに対し、本件原画二については、被控訴人デザインセンターからの夏用のものを描いてくれとの注文に応じ、本件原画一とほぼ同一の北アルプスとその山麓周辺を描写の対象としたものの、雪のない北アルプスを描くために本件原画一とは全く配色を変え、正面の連峰は山頂部に僅かに雪を残すほか荒々しい岩肌を現わし、低い山々は緑の樹林で覆われたものとして描写し、視点を低くして素描の中心を平野部においてこれを誇張して描き、したがって、山の部分は上下に詰められて描かれているものであること、(四)本件原画三については、同様に本件原画一とほぼ同一の北アルプスとその山麓周辺を描写の対象にしているものの、被控訴人デザインセンターからのスキー場をはっきりさせたいとの注文に応じ、連峰やこれに続く山々の山容、配置を本件原画一とは異なるものとし、尾根筋や谷を雪深く描き、ゲレンデの概要を記入したもので、正面の連峰の山頂部については雪をカットし、より一層山の険しさが表現され、かつ変化が感じられるようにしたものであること、(五)酒井は、本件原画二、三を制作するに際し、本件原画一も見て参考にしたけれども、他に被控訴人デザインセンターから航空写真二、三〇枚及び地図等の提供を受け、さらに本件原画一を描いた時と同様にペラン(山のパノラマと鳥瞰図を専門とするオーストリアの画家)の作品を参考にしたこと、(六)本件各写真は、北アルプスの連峰と山麓及びその周辺を撮影したものであるが、本件原画二、三とは構図を異にしているのみならず、山容その他地形の表現形態も異なっており、本件原画二、三から本件各写真の本質的特徴を感得することはできないこと、以上の事実が認められる。

以上認定の事実によれば、本件原画二、三は、本件原画一とほぼ同一の北アルプスめ連峰、山並み、平野部、湖沼等を描写の対象とした点において類似性があるとはいえるが、本件原画一は単に本件原画二、三制作の参考にされたにとどまり、その著作物自体から本件原画一の本質的特徴を直接感得できないものであって、その表現形式、内容において本件原画一にみられない創作性を有するものであり、本件原画二、三をもって、本件原画一の複写物又は本件原画一を変形した二次的著作物であると認めることはできず、また、本件各写真とは構図に類似性がなく、表現形態も異なっており、その二次的著作物であると認めることもできない。」

2  原判決五二頁五行目の「昭和五二年一〇日一五日」を「昭和五二年一〇月一五日」と訂正する。

3  原判決五九頁一行ないし五行を次のとおり改める。

「これに対し、控訴人は、右〈2〉に係る印刷請負代金には、イラスト使用料は含まれていなかった旨主張し、控訴人代表者はこれに沿う供述(原審第一、二回)をしている。しかしながら、控訴人は、被控訴人三市村の前記合意に基づく求めに応じ、件名「大町市、白馬村、小谷村合同ポスター印刷」とする一一〇万円の見積書を提出し(乙六の二)、これに対し、被控訴人三市村では「発行枚数三〇〇〇枚版権使用料込で一一〇万円」としてこれを三等分した三六万六〇〇〇円を各自の負担とし(乙六の一)、控訴人に支払っていること(原審証人内川雅夫の証言)、〈3〉昭和五三年度のポスター三〇〇〇枚の印刷請負代金が七五万円であること(乙七)に照らし、一一〇万円より三〇万円を控除した八〇万円を印刷請負代金とみることに合理性があること、控訴人においてこれと別個に〈2〉のイラスト使用料を被控訴人三市村に請求していたとは証拠上認められないこと等の諸事実に照らすと、右代金にはイラスト使用料が含まれていたものというべく、その後の被控訴人白馬村の追加注文との単価の差異は右認定を左右するに足りないから、控訴人の右主張は採用できない。」

二  よって、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

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